螺ス倉庫

ほぼ倉庫

DM 小包を届けに

「これをネオパールという人に届けてきてください」

憧れの人にそう言われて受け取ったものは小包だった。持ってみると意外と軽く、入っているものはおそらく布の生地だろうと推測できる。少年のような見た目の少女、ネリア・ガネットはかねてから憧れ、慕っていたドールマスターであるルチル・ラドライト直々の“おつかい”に気分が高揚した。というのも、これを完璧にこなせばまたドールマスターへの道が一歩近づく、そのように彼女は捉えていたのだ。
「行ってまいります!」
ネリアは元気良く挨拶をし、彼女が住み込みで働く工房「メレーホープ」の扉を勢い良く開けた。

小包につけられた地図を見ながらネリアは意気揚々と歩いていた。以前おつかいを頼まれた際、持ち前の方向音痴が合間って迷子になったことがあったが今回は違う。
「前はあのヤンキーが間違った地図を渡してきたから迷っただけです!今回は…ふふふルチル様から直接もらったものですから迷うはずがありません!!」
ふんふんと鼻歌交じりで道を行く。しかし、ネリアは少しずつ目的地の方向から外れていっていることにまだ気づかなかった。

「あれれ?おかしいです…」
地図を見る限りそろそろ目的地に着いてもおかしくない頃合いだ。ネリアは地図をぐるぐる回しながら首をひねった。
「もしかして…また迷った…?」
サーッと血の気が引くのが自分でもわかった。今までるんるんだった心が急に不安でいっぱいになる。
「と、とりあえず道を聞いてみましょう!」
ぺちんと両手で顔を叩き、街道を歩く人に声をかけた。
「すみませーん、この場所に行きたいのですが…」
声をかけられた通行人は優しく彼女に道順を教えてくれた。今回も良い人に助けてもらえたとネリアは安堵した。

「ここでいいんですよね…?」
道中、通行人に道を尋ねながらネリアはなんとか目的地にたどり着いた。そこはやや古めの木造の工房で、自身が身を置いているメレーホープより少し大きい。看板には「ジェムストーン」と固い文字で書かれている。
扉につけられたベルを押そうかどうか迷いながら、ネリアは指を上げたり下げたりしていた。
「うちの工房に何か用かな?」
突然の背後からの声にネリアは肩をびくりと震わせた。恐る恐るそちらを向くと、そこには身長が190cmはあろうかという大男が立っていた。いつの間に近づいたのだろう。気配なく近づいてきた大男にネリアは目をキョロキョロさせた。
「あ、あの…そのう…」
目を泳がせまくるネリアに大男は苦笑し、目線を合わせるように中腰の姿勢になった。
「これでいいかな?」
もっともネリアの背が低いのか、大男が高すぎるのか、それでも大男の方が目線は上になっていたが。
ネリアはその時ようやく大男の顔を見ることができた。茶色の髪を全部まとめて高めの位置で団子のようにくくっている。下がった眉と同じように垂れた緑色の目はとても優しげだ。宝石のような瞳がとても綺麗で、ネリアは自然と大男と目を合わせていた。
「あの、今日はこちらのペリドット・ネオパールさんという方にお届け物を持ってきました!ネオパールさんはいらっしゃいますでしょうか?」
「ん、ああ…」
ペリドットという宝石の名を持つ方、一体どんな素敵な女性なのだろうとネリアは胸を膨らませながら相手の答えを待った。
「えっと、それ僕だ」
「…え??」
予想外の答えにネリアは思いっきり目を丸くした。大男、ペリドットはあはは、と笑った。
「よく言われるんだよ。宝石の名前だから女の人だと思ったって。いやー、しょっぱいねえ」
そう言いながらペリドットはネリアが手にしていた小包を指差した。
「それ、貰ってもいいかな?」
指差された方に顔を向け、ネリアは慌てて小包をペリドットに差し出した。
「しっ失礼しました!」
「いいよいいよ」
小包の内容が書かれたメモを眺め、うんうんとペリドットは頷いた。
「たしかに受け取りました。君、ルチルさんのお弟子さんかな?」
「はい!そうです!」
押しかけですけど、とネリアは心の中で付け足した。
「いいなあ。僕もルチルさんのところで学んでみたかったなあ。ねえ、どんなこと学んでるの?」
「えっと…今はお掃除したり、おつかいしたり…」
再びネリアの目が泳ぐ。声も今にも消え入りそうだ。
「でもメイカーだよね?」
「はい!」
「ならうちにあがっていきなよ。君にお礼したいし」
「い、いえそんな!悪いですよ!」
慌ててネリアは手をばたばたと振るが、ペリドットはいいからと扉を開けて促した。
「君がメイカーにしろ普通の子にしろお礼はするつもりだったし。ほらおいで」
「し、失礼します!」
ここまで言わせてしまったのなら甘んじてお礼を受け取るしかないと、ネリアはドキドキしながら工房「ジェムストーン」へと足を踏み入れた。

扉を開けるとすぐにネリアは驚いた。自身が働く工房はたくさんのファンシードールが並べられ、綺麗に飾られている。しかしペリドットの工房はあまりにも殺風景だった。ドールは並べられているが、数がずいぶん少ない。そして、ドールの横に何か書かれた紙が置かれている。何が書かれているのだろうとネリアが寄ってみると、どうやらそれは名前のようだ。
「そのドールを作った人の名前だよ」
「作った人の名前、ですか?」
この工房はペリドットの工房ではないということなのだろうかと首を傾げていると、ペリドットはカウンターの奥からちょいちょいと手招きした。
「こっちに来ればわかるよ」
ネリアも早足でカウンターの奥にある通路へと向かった。通路を抜けた先には作業場が広がっていた。個人で使うにはかなり広い作業場で、そこには複数のメイカーやマスターがドール作りに勤しんでいた。どうやらマスターが作っているドールも種類がバラバラで、ぱっと見るだけでもマシン、ファンシー、オルディの3種類のドールが作られているのがわかる。
「これは…」
ネリアが口をぽかんと開けていると、ペリドットがくくっと笑った。
「君はうちの工房、ジェムストーンの意味を知ってるかな?」
「えっとジェムストーン…原石…ですか?」
「そう、正解だ。賢いね」
いえいえと口では謙遜するがネリアはにやけ顔を隠しきれない。
「うちは若手のドールマスターが共同で使っている工房なんだ。自分の工房を持つのが金銭的に難しい若いマスター達のために作られたらしい。ここの管理人はあの…奥にいる人ね」
ペリドットが指差す方を見るとそこにはメイカーを指導する中年男性がいた。
「あの人に弟子入りしてるメイカーもいるから、マスターだけしかいないってわけじゃないけどね」
「では、あの入口のドール達はここのマスターさん達が作ったということですね?」
「その通り。あそこに置かれたドールは僕達の名刺なんだ。普段はあそこでドールの販売はしていなくてね。街で開かれるマーケットにスペースを借りて販売をすることが多いんだ。そこで目をつけてもらったらうちの工房に来てもらう。それで受注生産って流れが1番多いかな。あとはここのことを元から知ってる人なんかは直接ここに来て、入口で気になったドールを作ったマスターとお話をすることもあるね」
「そんな形の工房もあるんですねぇ」
「まあ特殊なところだとは思うよ。けっこう出入りも激しいし。…ここにいるマスターは皆、原石なんだ。ここで自分の原石を磨き上げて最高の宝石を作ろうとしている、なんて言ったら大げさかな?」
ペリドットは恥ずかし気に苦笑した。それにネリアは強く言い放った。
「いいえ!とても素敵だと思います!」
「そうかな?ありがとう。あ、こっちについて来てくれるかな?」
工房の説明を終えると、ペリドットは再び歩き始めた。ネリアはじっと作業場を見つめた。
「僕もいつかは…」
そうぽつりと呟き、ペリドットの後についていった。

ペリドットについていった先は寮のようなところだった。その1番奥の部屋にペリドットはネリアを案内した。ペリドットは大きな手でコンコンと木製の扉をノックする。
「ただいま。帰ったよ」
そう言うと扉がゆっくりと開かれた。現れたのは少女の姿をしたドールだった。
「おかえりなさい」
真っ白なショートボブが印象的なドールは透き通った声で言った。しかしその声には感情の色がない。
(マシンドールさんでしょうか?)
ネリアは心の中でそう思いながら、自身の工房にいるマシンドールのことを頭に浮かべた。彼、露草伊吹はマシンドールでありながらファンシードールのような気遣いができる特殊なドールだ。彼はネリアの良き話し相手であり、ネリアはよく彼に癒しを貰っている。
そんなことを考えているとぴょこんと少女ドールの後ろから幼い少女が顔を出した。長い桃色の髪をお団子状に結い、余った髪を三つ編みにしている。長い耳が特徴的で、恐らくファンシードールだろうと推測できる。小さな女性型ドールであるフロイラインにしては身体が大きいなとネリアが考えていると幼い少女ドールが声をあげた。
「お客様ですね!?どうぞこちらへ!」
元気の良い大きな声で招かれ、ネリアはゆっくりと部屋に入った。
「わあ…」
その部屋はまるで少女の部屋だった。ピンクや白を基準とした可愛らしい家具やオルディドールが飾られている。しかし置いてあるベッドの大きさから見るにペリドットの部屋であることは間違いなく、ネリアは何と言えばいいのかわからなくなっていた。
「えっと…ネオパールさんは可愛らしいものが…お好きなのですか?」
「あ、僕のことはドットでいいよ。皆そう呼んでるから。うんまあ好きかな。僕、ファンシードールのマスターだし」
「あちらのドールさんはやっぱりネ…ドットさんが作られたドールさんなのですか?」
「そうだよ。どっちも僕が作ったファンシードールだ。ちょっとサイズは大きいけどね」
ペリドットは目を細めてソファやローテーブルをセッティングする2人のドールを見つめた。
「君、えっと…名前は?」
「あっ!失礼しました!僕、ネリア・ガネットと申します!」
そういえば名を名乗っていなかったということに気づき、ネリアは背筋をピンと伸ばしてペリドットの方を向いた。
「ネリアちゃんね。ネリアちゃんはハーブティー飲める?」
「はい!大丈夫です!」
元気の良い答えにペリドットは微笑んだ。
「じゃあそこのソファに座って2人と話でもしておいて。準備するから」
「あ、はい。お、お構いなく…」
ネリアはソファの方に視線を向けた。ソファは1人掛けと数人で座れるものがある。1人掛けのソファはやたらとサイズが大きい。きっとペリドットのソファなのだろう、とネリアはロングソファの方に腰掛けた。すると、幼い少女ドールがいそいそとソファによじ登ってきた。少し尻の方を押して登りやすくしてあげると「ありがとうございます」ときっちりお礼の言葉を述べた。
「お客様のお名前はネリア様というのですか?」
「うん、そうですよ!」
ネリアのその言葉に幼い少女ドールは顔をぱあっと輝かせた。
「すごいのです!ネリネと名前がそっくりなのです!あっ!ネリネネリネと申しますのです!」
目をキラキラさせたと思ったら深々とお辞儀をしだし、ネリアはそのくるくる変わる表情に思わず笑ってしまった。
「あとですね…あちらのメリィもちょっとだけネリア様とお名前が似てるのです!メリィはアルメリアというのです!でも長いから皆メリィと呼んでいるのです」
ネリアがソファの側に立つ少女ドール、アルメリアに目をやると彼女は目を伏せてお辞儀をした。
「えっと、メリィさんもこちらにどうぞ」
ネリアがぽんぽんとソファを軽く叩いて座るように促すと、アルメリアは相変わらずの無表情のまま
「失礼します」
と一礼して行儀よくソファに腰掛けた。
「メリィはちょーっと不完全で無表情なところがあるのですが、心の中では笑ったりしているので気にせず話しかけてあげてくださいね!」
ちらりとネリアがアルメリアを見ると、ふいとアルメリアが顔を背けた。
「あ、今照れました」
ネリネは彼女の心の中がわかるのか、そんな風に解説した。
「ちなみにネリネもすこーし不完全なのです!ネリネはしゃべりすぎだと言われましたのです」
「え…」
思わずペリドットの方を見ると、キッチンのコンロの方を向いたままペリドットは察したようにネリアの疑問に答えた。
「メリィは僕が初めて作ったドールでね、うまく心核で心を吹き込むことができなかったんだ」
心核は文字通りドールのコアであり、ファンシードールやマシンドールを動かすために不可欠なものである。マスターは心核を使ってドール達に心を吹き込む。そして街でよく見かけるドール達になるのだ。
「完全に僕の技術不足だったよ。それでメリィはうまく感情を顔に出せないんだ」
「そうなのですか…」
ネリネもですよ!ネリネもすこーし不完全なのですよ!」
すかさずネリネが先ほどと同じことを言った。
「そうだね、ネリネも不完全だ」
ペリドットがそう返すと、ネリネは誇らしげにむふーっと鼻息を荒くする動作をした。
ネリネとメリィは2人合わせると完全になるのです!」
ねっとネリネアルメリアの方を向くとアルメリアは小さく頷いた。その顔はネリアには少し柔和になったように見えた。
「仲良しさんなんですね」
「はい!最強コンビなのです!」
ネリアの言葉にネリネは力強く頷いた。
「はい、できたよ。ネリアちゃんはお砂糖いるかな?」
ペリドットがトレイにカップと砂糖の入った瓶を乗せながら、ネリアに尋ねた。
「はい、お願いします」
「おっけー、はいどうぞ」
ペリドットはゆっくりとトレイを運び、カタリと小さく音を立てながらそれをローテーブルの上に置いた。ハーブの香りが鼻腔をくすぐる。
ローズマリーだよ。集中力を高める効果があるんだって」
「それはいいですね!僕のちょっとおっちょこちょいなところが治るかも!」
ネリアがガッツポーズをとりながら嬉しそうにしていると、ペリドットはたまらず吹き出した。
「あはは、ネリアちゃんって面白いね」
大きなソファに腰掛け、ペリドットは自身のカップに砂糖を入れる。
「そ、そうですか?」
そしてネリアもペリドットの真似をして砂糖を1杯いれ、一口ハーブティーをすすった。味はあまりわからないがとても優しい口当たりだ。
「純粋で面白い子だよ。いいマスターになれるんじゃないか?」
「えへへ、そうですかぁ」
ネリアはあからさまにニヤついた。
ネリネ、ネリア様が作ったドールとお友達になりたいのです!」
「私も」
ネリネアルメリアはじいっとネリアを見つめた。
「えっとそれじゃあ…早くマスターにならなきゃ」
にへっとネリアは笑う。
「あと…僕とも友達になってほしいなぁ…なんて」
そして頬を引っ掻きながら2人のドールに言った。
「もちろんです!」
「もちろんです」
2人のドールが口を揃えて即答した。
「へへ、ありがとうございます」
3人の少女がキャッキャッと戯れる姿を見てペリドットは親のような温かい笑みを浮かべた。
「あ、そうだ」
ペリドットはふと思い出したように立ち上がり、大きめのクローゼットを勢いよく開けた。そこには大きなサイズのメイド服やらロリータファッションと呼ばれるようなフリルのたくさんついた大きなサイズの服が掛かっていた。
「…ここじゃないや」
唖然としているネリアの視線を背中で感じながら、ペリドットは冷や汗を流しつつも何事もなかったかのようにクローゼットを閉め、隣のタンスの引き出しを開けた。
「あったあったこれだ」
ペリドットが出してきたものは洋服だった。レースが所々にあしらわれたワンピースで、ドット柄の桃色の布地が明るく元気な印象を持たせている。それをネリアの背中に当て、うんうんと頷く。
「やっぱり、サイズぴったりだね。これ、よかったら貰ってくれないかな?」
「えっ、でも僕お仕事ばっかりでおしゃれなんてあんまり…」
「ちょっと空いた時にでも着てみてよ。似合うと思うんだけどなぁ」
ペリドットに手渡されたワンピースを見ながら、ネリアはうぐぐと唸った。
「僕がしたかったお礼ってこれなんだ。気に入らなかったら売ってくれて構わないよ」
「とんでもない!すごくかわいいです!…あまり着てあげられないかもしれませんけど…いいですか?」
その言葉にペリドットは満面の笑みを浮かべた。
「もちろん!ありがとう!いやー、君を見た瞬間この服にサイズぴったりだろうなあと目をつけてたんだよねー」
「見ただけでサイズがわかるなんてすごいですね!」
他の人が聞いたら犯罪ではないかと疑われかねない発言にネリアは素直な感想を述べた。そしてスカート部分の裾のところに視線を落とすとなにやら見たことのある刺繍が施されていた。
「え…?ドット…パルレ?えっ…これドットパルレじゃないですか!!」
「あ、うん。そうだよ?」
「今流行りのブランドじゃないですか!こんなのボク本当に貰ってもいいのでしょうか!?」
「いいよ、僕が作ったものだし」
「…ほぇ?」
ネリアはペリドットを見ながら口をパクパクさせた。
ドットパルレといえば一般の人だけでなく、マスターやメイカーからも話題にされる一風変わったブランドだ。というのも、女性だけでなくファンシードールや女性型のマシンドールにもおしゃれを楽しんでもらいたいというコンセプトの元作られたブランドだからだ。レースやドット柄のものが主流のブランドで、若い女性が自身のドールを連れて店を訪れる姿がよく見られている。
「え、これ…ドットさんが作られたのですか!?」
「うん、やっぱり意外だよねえ。さっきも言ったけど僕、可愛いものが好きでさ。可愛い服を人間だけじゃなくてドールにも着てほしくてお店を作ったんだ」
「意外…ですけど、でもすごいです!」
「あはは、ありがとう。本当は僕自身も可愛い服が着たいんだけどね…あまりにも似合わなくて…しょっぱいねえ」
ペリドットはちらりと先ほどのメイド服が入ったクローゼットを見やった。
「あれは正直きつかったのです」
ネリネがきっぱりそう言うと、アルメリアは無言で頷いた。
「それは…ざ、残念ですね」
ネリアもこれには言葉を詰まらせてしまった。
「そのワンピースはこれから店に出すつもりの新作なんだ」
「そんなものを本当に貰ってもいいのでしょうか…?」
「いいよいいよ、女の子に可愛いものを着てもらいたくてやってることだから」
「あ、ありがとうございます!大切に着ますね」
にこっとネリアが笑うとペリドットはうんうんと頷いた。
「でもそんなに大切にしなくてもいいよ。どんどん着てボロボロにしてね」
「そ…それはちょっと…」
ネリアは困ったように頬をかいた。そしてふと壁掛け時計に目をやると、時刻は夕方になることを示していた。
「もうこんな時間!僕、そろそろ失礼しますね」
「それなら途中まで送るよ。あと、そのワンピースちょっと貸してくれないか」
慌ててソファから立ち上がるネリアからワンピースを受け取り、ペリドットはちょうどいいサイズの紙袋にそれを入れた。
「こうした方が持ちやすいよね」
「ありがとうございます!…それではネリネちゃん、メリィさん失礼します」
ぺこりとネリアが頭を下げると、ネリネは自身のスカートを両手で軽く持ち上げ、同じようにぺこりと頭を下げた。メリィも両手を前に重ね礼儀正しく頭を下げた。
「また遊びに来てくださいね!」
「待ってます」
「はい!また来ますね!」
ネリアは満面の笑みを浮かべた。

「この辺りで大丈夫かな?」
「はい、もう大丈夫です」
ペリドットと話をしながら歩いていると、もうそこはネリアの見知った場所だった。
「わざわざ送ってくださってありがとうございました!」
「どういたしまして」
ペリドットはそう返したあと、顎に手を当て考えるような仕草を見せた。
「ルチルさんが今日、君を僕のところにお使いに向かわせたのは意味があったんだろうな」
「え?」
「たぶん、ドールマスターの働き方って1つじゃないってことを君に見せたかったんだと思う」
「えっと、自分の工房を持つ人だけじゃなくて、ドットさんのところみたいに複数で工房を持つ人達もいる…ということでしょうか?」
「うん、そういうこと。ネリアちゃんはあまりこの世界に詳しくなさそうだからね。今のうちにいろんなことを知っておいてほしいんじゃないかな」
「なるほど…。さすがルチル様ですね!!」
目をキラキラとさせながらネリアは両手をグッと握った。
「ネリアちゃん、君がマスターになったらうちにおいでよ」
ペリドットは薄く笑みを浮かべながらネリアに向かって言った。
「え…」
「その時僕はあそこにはいないかもしれないけど、きっと皆君を歓迎するよ」
「ありがとうございます!」
「あ、でもあそこ男しかいないや」
「そ、それはちょっと…」
「そうだよねえ」
ネリアとペリドットは目を合わせたまらず吹き出してしまった。ひとしきり笑うとペリドットは少し真面目な面持ちでネリアを見た。
「でも君にうちの工房に来てほしい気持ちは本当だよ。僕は君みたいな子が好きだからね」
「えっ!?ええ!?」
その言葉に思わずネリアの顔が真っ赤になった。
「そ、そんな急に…そういうことはですね、もっと知り合ってからですね…」
しどろもどろになるネリアにペリドットは頭に疑問符を浮かべた。
「んー?そうかあ、たしかに君のことはよくわかってないもんね。これから君がどんなドールを作るのか知る必要はあるかもなぁ」
「え?」
「ん?」
何やら互いに話が噛み合ってないことに気づき、2人は首を傾げた。
「とにかく、勧誘はまたさせてもらうよ」
「はい!」
「それじゃあ、ルチルさんによろしく。あと…」
ペリドットはネリアの耳元に口を寄せた。
「ルチルさんに寸法計らせてって言っといてくれる?」
「…え?」
頬を紅潮させたネリアはすぐさま唖然とした顔になった。
「ルチルさん、綺麗な顔してるからさー、僕の作った服を着てほしいんだよね。絶対ゴスロリとか似合うよ!!」
右手でガッツポーズを作るペリドットを尻目にネリアはふとゴスロリ姿のルチルを想像してみた。悪くないかも…と思うがいやいやと頭を振ってそれをかき消した。師匠のそんな姿を想像するなど弟子としてなっていないと自分を心の中で叱る。
「それでは僕は失礼します。お見送りありがとうございました」
ネリアが元気良くお辞儀すると、ペリドットはひらひらと手を振った。
「また遊びにおいでね」
「はい!」
見慣れた景色を眺めながら、ネリアは足取り軽く紙袋を抱えて慣れた道を行く。自身が住まう工房の扉を開ければ、小気味好い鈴の音が響く。出迎えるのは優しい老紳士のマシンドール。帰ってきたネリアの姿が目に入ると老紳士のマシンドール、伊吹が優しく微笑む。
「おかえりなさいませ」
「ただいま伊吹さん!」
「おや、何か嬉しいことがございましたか?」
「はい!」
ネリアは嬉しそうにはにかんだ。
「お茶友達ができました!」


ということでキャラ紹介


日付確認したら2年も待たせてた…大変お待たせ致しました…