螺ス倉庫

ほぼ倉庫

小話

 そろそろ日が落ちようかという時刻ーー
 とある山の中の小さな村の離れに存在する大きな古城へと1人の青年が歩を進めていた。
 両の灰色の瞳にどこか狂気的な色を浮かべながらー



 Act.0.5 ノーザンクロス
 −In an old castle−



 青年が古城へと続く山道を歩き続けているといつの間にやら完全に日は落ち、
あたりは暗闇の独特な静寂に包まれていた。長時間歩き続けていたせいか
20歳にはまだ満たないその顔にはうっすらと汗がにじんでいた。
「クソ、意外と遠いな・・・」
 ぼそりと悪態をつく青年、ノーザンクロスは汗を軽く腕で拭うと再び歩き始めた。

 ノーザンクロス、本名ノーザンクロス・ヘミスフィア。
 彼は手当たり次第に強い者たちに戦いを申込み、勝ってきた。
 いつか自分が「最強」と呼ばれるために。
 そして勝つために手段を惜しまず力を欲し続けていた。
 強さを追い求める理由が、自分がどう足掻いても得ることのできない能力を弟が易々と手に入れてしまった
ことへの嫉妬心を潰すためだということを心の奥にしまい込みながら、彼は強者を求めて旅を続けていた。

「こりゃ、近くで見るとまたでけぇな」
 ようやくたどり着いた古城はまさに「吸血鬼の住む城」といった見た目だった。
 庭は長年手入れされていないため草が伸び放題になっており、扉は所々腐り、壁には苔が生え、
よくよく見るとヒビもあちらこちらに走っていた。それだけで見ている人を不気味にさせるが、
今が夜なだけに、月明かりだけで照らされた古城はますますその不気味さを際立たせ、人を寄せつけない
雰囲気を醸し出していた。
 
 もっとも「普通」の人が見れば、の話だが。
 
 そんな古城が出す雰囲気を完全に無視しながらノーザンクロスはずかずかと中に入って行った。
 この中に吸血鬼がいたらそれはそれで儲けものだと常識外れなことを考えながらーー

 中に入るとそこは当然ながら窓から漏れる月明かりしか光がなく、窓から離れれば自分の伸ばした手すらも
見えない状態だった。もとより少しの腹ごしらえと寝るためだけに古城へ行くつもりだったノーザンクロス
とっては取るにたらないことだったようで、そのまま窓から少し離れたところにどかっと腰を下ろした。
 そして腰にぶらさげていた袋からパンを取り出し、かじろうとした瞬間、古城に入ったときから感じていた
妙な「気配」を背後に感じた。
「何だ?お前」
 鋭い殺気を放ちながらノーザンクロスは「気配」の正体の首元だと推定される部分にどこからか取り出した
短めのナイフをあてがった。
 すると「気配」の正体はビクリと体を震わせ、小さく「ひっ」と声を漏らした。
 そのわずかな声が聞こえていたのか、ノーザンクロスはナイフをゆっくりと下ろし、1つの疑問を投げかけた。
「お前・・・女か?」
「は、はいぃ・・・そ、そうですわ・・・」
すっかりおびえた様子の「気配」の正体は幼い声でゆっくりと言葉を並べる。
「気配」の正体がおびえていることに気付いたノーザンクロスは先刻までの鋭い殺気を消し、穏やかな
雰囲気を纏って優しく話しかける。
「悪いことしたな。まぁ・・・安心しな、オレは女には手をださねぇ」
 相手が見えているのかどうかはわからないがそのまま優しい笑顔を見せた。
 
 ノーザンクロスは女性には優しい。特にロリコンという気はないのだが幼い子をとりわけ優しく扱うのだ。

 「気配」の正体である少女が少し安心した様子を感じ取ったノーザンクロス
「ていうか、嬢ちゃんは何でこんなところに?親はいねぇのか?」
 というそういうお前はどうなんだという突っ込みを受けそうな質問をするが、少女は
特に気にすることなくあっさりと答えた。
「旅行に行っていたのですが、帰りに迷ってしまって・・・。そしたらちょうどいい古城があったので
今日はここで休もうかと思ってたのですわ。」
「嬢ちゃん、もう少し山を下って行ったら村があるからそこで休ませてもらった方がいいんじゃねぇのか?
なんなら、今からオレが・・・」
「ダ・・・ダメですわ!!」
ノーザンクロスの提案に大きな声で少女は反対した。
「な・・・」
 予期せぬ大声にノーザンクロスは少し面喰ってしまった。
 そして、面喰っているノーザンクロスをそのままにして少女はその理由をおびえたように話し出す。
「だって・・・だって、こんな怖い感じの山でこんな夜中に外に出て、もし
幽霊とか出てきたらどうするのですか!?」
「それならここも大差ないんじゃ・・・」
 ノーザンクロスは当たり前なツッコミをボソッと呟いた。
 むしろここの方が幽霊といった類のものが出てきてもおかしくはないと心の中で思うがあえて口には出さなかった。
 そこでノーザンクロスは自分の腹に何やらせつない感覚を覚え、今しがた自分がしようとしていたことを思い出した。
「・・・よかったら、パン一緒に食うか?」

 真っ暗な中で青年と少女がパンを分け合って食べるというなんともいえない状況の中、
少女がノーザンクロスに向かって話しかけてきた。
「あのぅ・・・血って持ってはいませんか?」
「・・・は?」
 いきなりの少女の「血を持ってませんか」発言に混乱するノーザンクロス
 その様子が見えたのか少女はあわあわと慌てながら質問した。
「えぇ!?ヴァンパイアじゃないんですの!?」
「オレは人間だが・・・」
「えええええ!?」 
 たがいに混乱し合ったまま会話を続けるがなんとかこの状況を理解しようとしたノーザンクロス
半ば確認をとるように少女に質問し返す。
「嬢ちゃんは、その、ヴァンパイア・・・なのか・・・?」
「そ・・・そうですわ・・・」
「・・・そうなのか・・・」 
 2人の間に沈黙が流れる。
 その気まずさに耐えかねたのか少女は気になっていたことを口にする。
「人間なのにこんな暗闇の中でわたくしの姿が見えているのですか?」
「いや、見えねぇけど・・・妙な気配がしてるからよ。」
 ノーザンクロスは人ならざる者の気配を敏感に感じ取れるようで、前にも何度かそんな気配を感じた
人ならざる者に戦いを挑んだこともあった。本人は相手が人ならざる者だとは気付いていなかったようだが。
「そういや、血、持ってねえかって言ってたよな?」
「あ、ハイ。そうは言いましたが人間さんなら持ってないですよね・・・」
「出そうと思えば出せるけど。」
困ったように呟く少女にノーザンクロスはすかさず答える。
「え・・・」
「でも、首から吸うのは勘弁な?ありがたいっちゃありがたいけど。」
そう言って何の迷いもなく自分の腕をナイフで切りつけ少女に差し出した。
「あ・・・あのぅ・・・」
少女は青年がしたことに驚き、目をぱちくりさせていた。
「ほら、遠慮すんなって。」
オロオロする少女に向かって笑いかけ、さらに飲めとばかりに腕を差し出す。
「で・・・では・・・いただきますわ。」
 ゆっくりと青年の腕に少女は口をつけ、血を飲み始めた。
 その時、ノーザンクロスが自分の腕に少女の唇が触れていることに対して
ほんの少し喜んでいたことは言うまでもない。

ある程度血を飲んだ後、先ほどよりは幾分か元気そうな声で少女は礼を言った。
「本当にありがとうございました!血を飲まなかったらコウモ・・・倒れてしまうところでしたの。」
「いいよ、別に。」
少女が元気になった様子にご満悦なノーザンクロスは少女と同じくらい元気そうな声で笑う。
「あの、そういえばお名前は何と言うのでしょうか?」
ふと、少女は青年に名を聞いた。
「オレは、ノーザンクロスっていうんだ。」
「ク・・・クロッ・・・!?」
少女がとても嫌そうな声をあげるのを聞き、ノーザンクロスは慌てて確認をする。
「も、もしかしてクロスとか、単語だけでダメなのか!?」
「い、いえ、単語だけなら大丈夫ですが苦手ではありますの・・・
・・・あの、ですから、お兄様、とお呼びしても・・・?」
「お兄様!?」
 突然ノーザンクロスは素っ頓狂な声をあげた。
 何を隠そうノーザンクロスは年下の女の子に「お兄ちゃん」と呼ばれたことは1度もない。
 ましてや「様」付きで呼ばれるなどということは自分が朝起きたら女になっていた、ということぐらい
ありえないことだと思っていた。そんなノーザンクロスにとってのまたとないこのチャンスを逃す気など
彼にはさらさらなかった。
「おう、呼べ!何回でも呼んでいいぞ!!」
 なんだか異様なテンションになったノーザンクロスははたと自分が聞き忘れていたことを思い出した。
「んで、嬢ちゃんはなんて名前なんだ?」
 少女はノーザンクロスにも自分の姿が見えるように月明かりの漏れる窓際へと移動し笑顔で自分の名を告げた。
「プリル・フール、と申します。」
「そうか、プリルか。かわいい名前だな。」
 己も窓際へと移動し、やっと目で確認した少女、プリルの頭を優しくなでた。ふわりとしたウェーブが心地よく、
ノーザンクロスはいつまでも撫でていたいと思った。
「また、会えたらいいな。」
「・・・!はい!」
 プリルと共にした一夜だけ、彼の狂気的な色は消え失せていたというー


 そして、時は流れーーー


 青年、ノーザンクロスは赤い赤い夕焼けを見ながら浜辺で腰をおろしていた。
 夕焼けを見つめる片方だけになった瞳は夕焼けと同じくらい赤く染まっていたが、
そのかわりに以前の様な狂気的な色はずいぶんと薄らいでいた。
 その姿を見つけた少女はもしかして、と足を止めた。
 彼と同じような赤い瞳で青年を見つめながら金色のふわりとした髪をなびかせ徐々に青年の元へと
近づいてゆく。
「あの、もしかして・・・お兄様?」
「!プ・・・プリルやんけ!!」
 大きく開かれた赤い右目にドキッとしながらも少女、プリルは笑顔を見せる。
「うわー、ひさしぶりやな!元気にしてたか?」
「えぇ。」
 プリルが言葉を返すと、ノーザンクロスは言葉を続ける。
 どこか寂しそうな顔をしながら。
「おまえは・・・1個も変わってへんな。」
「お兄様は、随分と変わられたのですね。」
 当時短髪だった髪には尻尾のように束ねられた毛が加わっており、灰色の瞳は
自身が好むものと同じ色に染まり、左目には眼帯がついている。また口調も以前とは
随分異なり、物腰もやわらかくなったような気さえする。そしてなにより、彼の纏う
気配そのものが全く違うものになっていた。
「まぁ、いろいろあったからなぁ・・・」
 そう言いながらノーザンクロスはどこか遠くを見るような目をした。
 その時プリルはこの青年が自分の知らない内に手の届かないようなところへ
行ってしまったような気になり、なんだか心に小さな隙間ができたような感じがした。
 それを知ってか知らずか、プリルの頭をノーザンクロスはわしわしと撫で始めた。
 髪を撫でるその手は前と全く変わってはおらず、プリルに安心感を与えてゆく。
 そして頭を撫でる大きな手の感触を噛みしめながら少女は思うーー

 ーこの人がこれ以上遠くへ行きませんように、と

 半ば祈るようにーー


終わり


小話のつもりが長くなった!!
いや、長くはない・・・?

この話はいつかメモにしようと考えてるものです^^;
うーさんとこのプリルちゃんをお借りしております^^;
プリルちゃんのキャラに合ってないところがあれば指摘してください><
最後がおかしい気がするけど・・・
ていうか、その前に文才なくてスミマセンorz

この話の説明等はまた後日にでも・・・