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羊執事 彼の名は―2

※「羊執事 彼の名は―」の続きです
先にそちらを読んでからお読みください


 ある夜、オレはいつものようにロウと話をしていた。
「そういえばハロルドって名字があるんですね、かっこいいなぁ」
 羊執事の中には自分と他人を区別するだけで十分と考え名前だけの奴も少なくない。ロウもきっと
その口なのだろう。
「お前は名字いらなかったのか?」
「いやぁ、名字、思いつかなくて・・・」
 照れたように笑うロウのあちらこちらにはやはり痣が見え隠れしていた。
「ハロルドの名字には何か意味があるんですか?」
「意味か、意味ならある」
 オレは夜空をやや睨むように見上げながら答えた。
「シーメリヤは、オレが生まれた村の名だ。」
「シーメリヤ・・・聞いたことないなぁ」
 ロウは自分の頭の中の引き出しを漁っているようだが、結局その名に覚えはなかったようだ。
「もう、地図にはないからな」
「それって・・・」
 何かを察したようだがオレは構わず続けた。
「羊執事導入計画に村の人たちは反対した。そしたら政府は村を焼き払ったよ」
 あの時、オレには何が起きていたのか理解できなかった。実験の対象として早いうちに羊執事にされた
オレが政府の奴らと共に村に戻ってきた時、元の飼い主はオレを見て泣いた。そしたらみるみるうちに
村の人たちが怒り出して・・・
 政府の奴らに無理やり連れ出されたオレは赤く光る村をただ見つめていた。何が起こっていたのか
知らなかった。またいつか村に帰れると信じていた自分の愚かさに腹が立つ。
「オレがシーメリヤを名乗るのは人間への抵抗だ」
 そう言って少し唇を噛んだ。
「でも、人間はそんなに悪い生き物じゃないですよ」
 こいつ、何言ってるんだ・・・?
「お前、そんなにあの下衆に殴られててよくそんなこと言えるな」 
 オレは思わず言葉を返した。
 その言葉にロウは少し罰が悪い顔をしたが、そのあとまた笑った。
「ボク、この主人で2人目なんです。最初のご主人様は小さな女の子で、とても優しくて
 お父様やお母様もボクを人間と同じように扱ってくれた。だからボクは人間というものが今の主人
 のような人ばかりではないと信じてます!」
「だからって、何でお前はあいつに殴られてもヘラヘラしてられるんだよ!?」
 つい語気が荒くなる。理解できない、何でお前はいつも笑っていられる・・・!?
「信じてるから。いつかご主人様がボク達のことを理解してくれるって思ってるから」
「まったく・・・めでたい頭してるな」
 オレは座り込んで顔を伏せ、消え入るように呟いた。
「オレが好きな人間はもう全員死んだよ」
 
 それからもロウは笑い続けた。どんなに殴られようと、どんなに罵声を浴びせられようとも―
オレが嫌味を言っても「執事だから」とかぬかす。そして「君はよくそう言いながら執事をやっているね」
と逆に嫌味を返してくる。羊執事は執事以外の職に就くことを禁じられている。執事を辞めたら野たれ死ぬ
のがオチだ。それにオレは主人に与えられた仕事を完璧にこなすことに生きがいを感じている。だから執事を辞める気などさらさらない。そんなことをロウに言えば「君こそ変わってる」と笑われた。
 ロウの性格が移ってきたのか、オレも気がつけば笑うことが多くなってきた。笑うことも悪くないかな、と
少し思い始めていた。

 そんな頃だった。主人のファミリーと敵対しているファミリーの間で抗争が起こったのだ。
 日が経つにつれて争いは大きくなり、ついには主人の屋敷にまで手が及ぶようになった。
「これはまずいな・・・」
 屋敷内のキッチンでそう呟いた瞬間、轟音が響いた。そしてオレは闇の中へ落ちて行った。

 気がつくとあたりはガラスや皿の破片だらけになっていた。どうも体が重く、あちこちに痛みが走る。
まだしっかりしない頭を無理やり働かせて状況を把握しようとした。
 キッチン自体に大きな損傷が見られないことからおそらく、隣の部屋に爆弾でも投げ入れたのだろう。
そしてその衝撃でオレは食器棚の下敷きに。他にも同じ目にあった奴がいるらしく中にはそのまま動くことがない奴らも確認できた。オレは自分が羊執事であることに初めて感謝し、食器棚を持ち上げて立ちあがった。
 顔にべったりと血がはりつき、そしてあちらこちらを破片で切っている。怪我の治りが早いとはいえ、
羊執事だって痛みは感じる。痛みに顔を歪めながら敵がいないか確認した。
 一体どれくらい気絶していたのだろうか。屋敷の中では銃声が響きわたっている。
 ロウは・・・無事なのだろうか・・・
 不意にどうしようもない不安に襲われてオレは体が痛むのを気にせず走り出した。

 あいつは身辺警護担当だからクソ主人と一緒にいるはず・・・!
 何度か出くわした銃撃戦を上手くかいくぐり、まっすぐに主人の部屋へと駆けていった。
 主人の部屋までたどり着くと軽く息をととのえて勢いよく扉を開けた。
 そこには1番見たくなかった光景が広がっていた。
 爆弾から主人を守ろうと両手を広げて立ったまま血まみれになっているロウと、おびえた目でその先を見つめる主人の姿。
「ロ・・・ウ・・・?」
 オレはその光景が信じられなかった、いや、信じたくなかった。
 焦点の合わない目をこちらに向けるとロウは力なく倒れた。
「おい、ロウ!ロウ!しっかりしろ!!」
 どう見ても助からないと頭ではわかっていた。わかっていても呼び掛けることしかオレにはできなかった。
膝をついてオレに抱え込まれていたロウがゆっくりとオレの方を見るとひときわ優しい顔で、笑った。
 そして、もう動くことはなかった。
「ロウ・・・おい・・・ロウ・・・」
 心の中は真っ白で、オレはただただ名前を呼び続けた。
「まったく、驚いたぜ・・・」
 今まで放心状態になっていた主人が強がるように言葉を吐いた。
「いきなり爆弾が飛んでくるなんてよ・・・まぁ、運が良かった。あの爆弾のおかげでヘラヘラ笑う
 気味の悪い道具を廃棄できたんだからなぁ。これで新しい道具を手に入れられるぜ、へへへ」
「こいつは・・・お前を命がけで守ったんだぞ・・・」
「はぁ?」
 いきなりの言葉に主人は下品な笑みを浮かべたままオレの方を向いた。
「こいつのおかげでお前は生き延びることができたんだぞ・・・!」
「なんだぁ?こいつに礼でも言えってのか?羊執事はご主人様を守る道具だろうが!!道具にわざわざ
 礼を言えってのか?ふざけるな!家畜の分際で!!」
 汚らしく唾を飛ばしながら怒鳴る主人を見ながら思った。
 やっぱり、人間は信じられない。
 そう思うと何故か目から水が出てきた。痛い時によく流れ出ていたものだ。その水が流れ落ちながら
オレは―――

 笑っていた

 やっぱりダメだ、ロウ。オレには人間を信じることができない。理解したくない。興味も持ちたくない。
人間なんてものはオレが仕えるための生き物にすぎないんだよ。
 だからオレは主人の為に命は賭けない・・・!
 心の中で湧き上がる思いを飲みこみながら、オレは笑い続けた。
 その間にも銃撃戦は激しさを増し、それは主人の部屋の近くにまで及んでいた。
 強がっていた主人は再びおびえた目になり、オレを指差した。
「おい!そこのお前!!オレを守れ!!」
 オレはロウの亡骸を抱えあげて立ち上がり主人に目を向け言い放った。
「あなたのようなクズに仕える気はもうございません。それではよい黄泉路を」
 あくまでも笑顔のまま。
 部屋から出て行こうとするオレを見て懇願するように主人は叫んだ。
「待て!金ならいくらでも出す!!頼む、命だけは!!おい!!聞いてるのか!!この家畜がァ!!!」
 そんな言葉は耳に入れずオレは屋敷から出て行った。
 それから間もなくそのファミリーは壊滅したそうだ。


「そんなことがあったのか―」
 現在の自分と同じところにホクロのある新しい主人はうんうんと短い金髪を揺らした。
「人間からの同情は結構ですよ」
 ハロルドはにっこりとほほ笑む。
「じゃあ、いつもにこにこしてるのはその友達の影響?」
「そうなりますかね。なに、ロウの分まで笑ってておいてやろうという親切心ですよ」
「どんな親切だ」
 すぐさま主人はつっこむ。新しい主人はいままで仕えてきたどの主人と比べてもどこか違っている、と
ハロルドは感じていた。
「だから名前がハロルド・ロウ・シーメリヤなのか。お前にとってそいつは本当に大切な友達だったんだな」
 そう言って主人は笑う。自分のことについてここまで触れられたのは初めての経験であったため
ハロルドは苦笑いするしかなかった。
「私の唯一の友人ですからね」
「なんだお前、友達少ないんだなー」
「ほっといて下さい。あなたも同じようなものでしょう」
 嫌味を言うと主人はまた笑う。20歳に満たないその顔は笑っていると本当に幼く感じられる。
「じゃあさ、眼鏡は?眼鏡はなんか関係あるのか?それ、伊達だろ?」
「ああ、眼鏡は単に人間をそのままの目で見たくないから掛けているだけですよ」
 目の前の人間に向かって気にすることなく言うと、主人は苦笑いした。
「お前の人間嫌いはそうとうだなぁ」
「まぁ、ここまでされれば嫌いにもなるでしょう」
 そう言いながらハロルドはおもむろにベストとシャツを脱ぎ、主人に背中を見せた。
 そこにあるのは無数の鞭の痕―
「ほとんどが先ほど話したクズにつけられたものですが」
 傷の治りが早いとされているが、毎日のように鞭で打たれれば痕が残ってしまうところもある。
それなのにハロルドの右の肩甲骨に刻まれた印のところだけは痕が避けたように綺麗に存在していた。
「それでも制御印は消えないものなのですね」
「制御印なんてなければいいのにな」
 主人の言った言葉にハロルドは驚きを隠せないでいた。
「そうすれば私はあなたを殺すかもしれないのですよ?」
「いいよ、別に。ボクの罪はボク自身が受けるべきだからな」
「あなたは今のところ何もしてないじゃないですか」
「お前が嫌う人間に生まれた時点でもう罪なんじゃないかな」
「よくそんな考え方ができますね・・・」
 呆れたように言うと、主人は肩をすくめた。
「それに制御印がなければその綺麗な肌を傷つけられなかっただろうし」
「おや、そういう趣味の持ち主でしたか。これは意外」
 ハロルドがおちょくると主人は顔を真っ赤にした。
「ばっ・・・!そんなんじゃねえよ!!ただ素直な感想を言っただけだろ!!」
 とても金持ちの人間が話す言葉ではないなと思いながらハロルドは自分の経験を語る。
「前に仕えた主人には男色家もいましてね、迫られたこともあったものですよ」
 羊執事が人間に逆らえないことをわかっていて無理やり身体の関係を持とうとする輩は少なくない。
女の羊執事にはなおさら多く、最近では子供の羊執事までもがその毒牙にかかりつつある。
「で、どうしたんだよ・・・」
「身体は与えずに言葉だけで逆に主導権を握ったやりましたよ。」
 ハロルドは活き活きしながら答え、その様子に主人はため息をついた。
「あぁ、そういえば初めて女主人に仕えた時は何故か男全員上半身はネクタイだけで仕えさせられましたね。 あれは奇妙でした。」
 懐かしげに話すハロルドにややげんなりしてきた主人はしっかりと自分の意見を言うことにした。
「ボ、ボクはノーマルだからな!」
「そんなあなたにお相手が見つかるとよいのですが・・・」
「大きなお世話だ!!」
「いえ、でもやはりその言葉づかいは直しましょう。一応、ご主人様は女の子なのですから」
「一応って言うな!!」

 人間を全く理解しようとせず、興味も持とうとしなかった羊執事が
新しい主人である人間の少女に興味を持ち始めるのはもはや時間の問題である―――

終わり

ってな感じです^^;
私には最初から最後までシリアスなものは書けないようです(笑)

ハロルドは見た目からのキャラなのですべてが後付けです←
まさかこんな子になるとは・・・!w
でも、名前を決める時にはミドルネームは「死んでしまった友達の名前」というのは決めてたんですよ?
いや、本当だって←

すごい世界観を作ってくれた友人に感謝!
皆もレッツ羊執事!←

羊執事の話はたぶんネタがあったらダイアリーで書くって感じなんでまぁ不定期です^^;
私もまだちゃんと世界観を把握しきれてないですしね

こんな駄文に付き合って下さってありがとうございました!