螺ス倉庫

ほぼ倉庫

MONSTERS 2

サメリは一足先に村の外に出ていた。そこから肉眼で魔物を確認すると軽く後ろを向きウィズを待った。ウィズがサメリに追いつくと同時に3人の魔物もウィズたちの前へと現れた。
3人とも姿はバラバラで、1人は獣のような姿、1人は人間、そしてもう1人は石像でよく見られる悪魔のような姿をしていた。
「・・・こいつらか?」
ウィズは相手の様子を窺いつつ横目でサメリに問う。
「たぶん・・・」
2人の話していた内容が聞こえていたのか、獣の姿の魔物が大声でウィズたちに話しかけてきた。
「おうおう!!お前ら退治屋かぁ!?見たところそんなに強そうじゃねえけどなあ!!なあ、アインス?」
「ああ、でもあんまりなめてると痛い目を見るぞ?」
悪魔姿の魔物、アインスが目を細めながら口元をゆがめた。
「わかってらあ。でもよぉ、相手がヘナヘナ男と華奢な嬢ちゃんだぜ?いまいち張り合いがねえ。ドライ、お前1人でやれよ」
「マジかよ〜ツヴァイ!じゃあオレやっちゃおうかな〜?」
人間の姿をした魔物、ドライが下品に笑いながら声をあげた。
3人のやり取りを眺めながらサメリはウィズに問いかけた。
「・・・私1人でやっていい?あいつら・・・雑魚・・・」
「「「雑魚だあ!?」」」
「雑魚」という言葉に反応した3人は一斉にサメリの方を向いた。その様子にウィズは呆れた顔をした。
「おいお前ら。お前らは何のために魔物になったんだ?」
ウィズの問いかけに獣姿の魔物、ツヴァイが大声で返した。
「あ”あ!?力が欲しいからに決まってんじゃねえか!!」
その答えにウィズは軽く肩を落とした。
「あーあ。聞いたオレが馬鹿だった。サメリ、もう倒しちゃっていいよ」
「わかった」
その瞬間にサメリは地面を蹴り、空中へ身を躍らせた。そして1番近い場所にいたドライに向かって回し蹴りを放つ。サメリの右脚がドライの左腕に直撃し、ミシッと鈍い音が鳴った。
サメリの脚からではなく、ドライの左腕から。
「っ・・・がはっ!!」
体重の軽そうな少女から放たれた重い一撃はドライの肺から酸素を奪い、そのまま意識まで奪っていった。
「まずは1人」
猫のようにしなやかに着地したサメリは無表情のまま淡々と呟いた。
「クソッ!ツヴァイ!ブーツだ!あのブーツに何か仕込んでるに違いない!」
「じゃあまずはブーツからだ!」
アインスの指示通りにツヴァイはサメリのブーツめがけて地を蹴り、鋭い獣の爪を立てサメリに襲いかかった。サメリの脚はブーツごと引き裂かれ、血が飛び散る―――はずだった。
「なん・・・でだ・・・」
ツヴァイの目は大きく見開かれた。
サメリの脚はおろかブーツにすら傷はついておらず、代わりにツヴァイの爪がばきりと折れていた。
「無駄だよ。猫ちゃん・・・」
ツヴァイは状況が飲み込めず、うろたえることしかできなかった。
「なんで・・・オレの爪が・・・こんな、ブーツなんかに・・・」
「これはブーツじゃなくて・・・私の脚だよ?」
「え・・・あ、あし・・・?」
「私は・・・自分の手足を自由に変えられるんだよ」
そう言いながら自身の左腕の形をめきめきと目に見える速度で変えていく。
「だって、私も魔物だから」
言い終わると同時にサメリの左腕の変形が止まった。
指が長く伸び、指先から付け根にかけては刃物のように鋭く変わり、そして左腕全体が銀色に淡く輝いていた。
「馬鹿な!お前は黒髪赤目じゃ・・・っ」
言い終わらないうちにツヴァイの鳩尾に重い衝撃が走り、そこで意識が途絶えた。
「・・・これで2人。あとは、あなただけだよ」
あきらかに動揺しているアインスを見据えるサメリ。勝利の笑みも浮かべず、殺気を込めて睨むこともせず、ただただあくまで無表情のままで。
「・・・いや、そこは笑っててもいいんじゃないか?」
ウィズはポツリと呟きながらどこからか銀色のロープを取り出していた。そして器用に片腕だけで気絶した輩を縛っていく。
「チッ!ここはひとまず逃げるか」
元来た方を向きアインスは猛スピードで逃げだした。が、その先にはすでにサメリが立っていた。
「クソッ!どけ!!」
腕を勢いよくしならせ拳を突き出す。アインスの腕は普通あるべきところよりも更に先へと伸びていた。
「その腕・・・悪魔型、タイプゴム人間って感じかな?」
冷静に分析しながら迫りくる腕を脇ではさみ、アインスの体を軽く引き裂いた。
「私は人間型、タイプ切裂魔・・・って聞いてないよね」
一仕事終えたサメリがパンパンと土ぼこりを払っていると、ウィズが大きく手を振った。
「おーいサメリぃー!そいつやっつけたんならこっちまで運んでくれー!これで縛るからー!!」
地面に置いてあるロープをウィズが指差すと、サメリは小さくうなずいた。
「わかった!」


なんとか3人を縛り終わると、ウィズはイヤリングに向かって話しかけ始めた。
「レイダさーん聞こえますかー?」
―ガガガッ・・・はいはい聞こえてるよ―
「とりあえずさっき言ってた魔物、全員捕えたんで運んどいてくださーい」
―はーい、わかりました。ザザザッブツンッ―――


ウィズとサメリ、彼らは魔物専門の退治屋だ。魔物とは悪しき力を欲したり、死にかけたりした時に現れる「契約者」と取引を交わした者が一度その場で死を経験し、そしてその肉体に再び生命を吹き込まれた生き物のことだ。魔物は古くから一定数存在はしていたのだが、最近その数が異常に増加し悪事を働く者も増えてきたため、それらを退治する退治屋が結成されたのだ。


―あ、そうそう―
急にレイダの声が聞こえ、ウィズは思わずびくりと肩を震わせた。
「うわっビックリした!いきなり話しかけないでくださいよ!」
―ごめんごめん。ちょっと思い出したことがあってね―
一息おくとレイダの口はいつもより真面目な声音を紡いだ。
―君が探しているアイツ・・・今君の近くにいるって話だよ?―
ウィズの眉間に皺が寄る。
「そうッスか・・・ありがとうございます」
無線を切り、ウィズはサメリの方を向いた。
「なあ、この辺りに魔物の気配はすんのか?」
サメリはぐるりと周囲の様子を窺った。
「・・・するよ。でも、少し違うような気もする」
「どの辺だ?」
「あっち・・・」
彼方を指差すと、ウィズはそちらを向き目を細めた。
「そうか、よしじゃあ村に戻って飯食ってからそこ行くか!」
またいつもの明るい調子に戻ったウィズの様子に、サメリは無意識に安堵の息を漏らしていた。


「おーし食った食った!」
ウィズは満足げな表情でポケットから地図を取り出し、現在地を確認した。
「えっと・・・今はここだろ?で、お前が感じ取った場所が・・・」
「ここ」
サメリはすかさずその場所を指差した。どうやらそこは今はもう使われていない廃工場のようだった。
「おし、ちょっと遠いけど走って行くか!いけるな?」
「うん」
そこでウィズはふと空を見上げた。
「・・・雨が降りそうだな」
どんよりとした空模様を眺めながらウィズはサメリに聞こえないぐらい小さな声で呟いた。
少し、悲しそうな顔で。